**マルチパス(multipath)**は、無線通信や放送において重要な概念であり、信号が複数の異なる経路を通じて到達することによって引き起こされる現象です。
本記事では、マルチパスの定義、原因、そしてそれによって生じる影響について詳しく解説します。
また、マルチパスによる問題を解決するための技術的アプローチについても探ります。
マルチパスの基本概念
1. マルチパスの定義
マルチパスとは、無線信号が地形や建物、障害物、上空の電離層などによって反射、回折し、複数の経路を通じて受信側に到達する現象を指します。
この現象は、通信品質に悪影響を及ぼし、信号の乱れや位相のズレを引き起こします。
2. マルチパスの原因
無線信号が反射する経路には、以下のような要因があります:
- 地形: 山や丘などの高低差により、信号が異なる経路を通る。
- 建物: 都心部では高層ビルによって信号が反射しやすくなる。
- 障害物: 車両や街灯など、さまざまな障害物が信号の経路を変更する。
これにより、受信側で同じ信号を何度も繰り返し受信することになり、これが**マルチパスフェージング(multipath fading)**と呼ばれる現象につながります。
マルチパスの影響
1. アナログ信号における影響
過去のアナログテレビ放送やレーダーシステムでは、マルチパスによって「ゴースト(ghost)」と呼ばれる現象が発生します。
これは、同じ画像が重なって表示され、位置や動きがわずかにずれた像が観測されることです。
これにより、視聴体験が損なわれることがあります。
2. デジタル信号における影響
デジタル信号では、マルチパスが波形を崩し、変復調が難しくなるため、通信が途絶したり、エラーが頻発したりします。
特に、携帯電話やWi-Fi通信においては、マルチパスの影響を受けやすく、通信品質が大きく低下する可能性があります。
マルチパスへの対策
1. マルチパス検出技術
マルチパスの影響を軽減するための技術も多く開発されています。以下はその例です:
- レイク受信: 複数の受信アンテナを使用し、受信信号の強度を最大化する方法です。
- OFDM(直交波周波数分割多重): 信号を複数の周波数帯域に分けて送信することで、マルチパスの影響を分散させます。
これらの技術は、携帯電話の通信規格や無線LAN(Wi-Fi)、地上デジタル放送などで広く採用されています。
2. 環境設計の工夫
建物の設計や都市計画において、無線通信が円滑に行えるように考慮することも重要です。
例えば、無線の受信感度が高い位置にアンテナを設置することで、マルチパスの影響を最小限に抑えることが可能です。
まとめ
**マルチパス(multipath)**は、無線通信における重要な現象であり、信号が複数の経路を通じて到達することによって引き起こされる問題です。
アナログ信号では「ゴースト」現象を引き起こし、デジタル信号では通信エラーを引き起こします。
マルチパスへの対策としては、レイク受信やOFDMなどの技術があり、これらは通信品質を向上させるために不可欠です。
無線通信の設計や運用において、マルチパスの影響を理解し、適切な対策を講じることが、快適な通信環境を実現するための鍵となります。