近年、自然災害、サイバー攻撃、システム障害など、企業活動を脅かすリスクが多様化・複雑化しています。
これらの事象に備えるには、単に復旧手順を定めるだけでは不十分です。
どの業務が止まると、企業にどれだけの影響を及ぼすのかを事前に把握することが重要です。
そのために行われるのが ビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis) です。
本記事では、BIAの基本概念から分析手順、ITとの関連、実際の活用事例までを体系的に解説します。
ビジネスインパクト分析(BIA)とは?
BIAの定義と目的
ビジネスインパクト分析(BIA) とは、企業内の各業務プロセスが中断・停止した際に生じる事業への影響を定量的・定性的に評価する手法です。
BIAは、事業継続計画(BCP)やディザスタリカバリ(DR)計画を策定するうえで、最初に実施すべきフェーズとされます。
BIAの目的は、次の3点に集約されます:
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業務中断時の影響度を把握する
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復旧の優先順位を明確化する
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適切な復旧目標時間(RTO/RPO)を設定する
なぜBIAが重要なのか?
業務ごとの影響度を把握する意義
企業にとってすべての業務が等しく重要とは限りません。
たとえば、決済処理システムが止まることは直接的な売上損失に直結しますが、社内報告の定例作成が数日遅れるだけでは、大きな損害にはならないこともあります。
BIAを実施することで、以下のような判断が可能になります:
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優先的に復旧すべき業務
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一時的に代替手段が使える業務
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長期間停止しても事業に影響しない業務
BIAの主な分析項目と評価方法
評価の基本フレームワーク
BIAでは、業務ごとに以下のような要素を整理・分析します:
金銭的損失(直接的損害)
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売上の逸失
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違約金の発生
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顧客離脱による将来的損失
機会損失(間接的損害)
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新規取引や提携機会の逸失
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ブランディング・信頼性の低下
社会的影響と法的リスク
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顧客・従業員・取引先への影響
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社会的責任・法的制裁リスク
評価結果の活用
これらの評価を通じて、「復旧までの目標時間(RTO)」や「許容可能なデータ損失時間(RPO)」を設定し、BCP/DRの戦略立案に反映させます。
BIAとITの深い関係性
ITシステムが停止した際のインパクトとは?
多くの業務はITインフラや業務アプリケーションに依存しているため、BIAにおいてITシステムの稼働状況は極めて重要です。
以下はIT部門でよく行われるBIA対象の例です:
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メールシステム(社内外のコミュニケーション)
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ERP(基幹業務処理)
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クラウドストレージ(ファイル共有)
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コールセンターシステム(顧客対応)
例えば、コールセンターシステムの1時間の停止が、数百万円規模の逸失利益を生むような業態もあります。
BIAの導入ステップと注意点
BIA実施プロセス
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業務フローの可視化
業務単位でプロセスを洗い出し、関係システム・部門を整理 -
影響評価のヒアリング
各部門へのインタビューやアンケートで影響度を評価 -
優先順位の付与
影響度と復旧所要時間に応じてリスクスコアを設定 -
分析結果の可視化
業務一覧表やインパクトマップとして資料化
導入時の課題と対応
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部門間での重要度認識のズレ
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客観的データ不足による主観的判断
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情報共有不足によるプロセス遅延
これらはIT部門と各事業部門が連携して、共通の評価基準を設けることで解消可能です。
実例:BIAを活用したリスクマネジメント
大手金融機関のケーススタディ
ある大手銀行では、ATMネットワークと勘定系システムの停止に備えてBIAを実施。
3時間を超える停止は社会的信頼の失墜に繋がるとの評価から、クラウドを用いたバックアップ環境と、BCPルームの構築を実現しました。
このように、BIAは単なる分析手法ではなく、企業戦略を支える重要な意思決定基盤となっています。
まとめ
ビジネスインパクト分析(BIA)は、現代の不確実な経営環境において、企業が持続可能性とレジリエンスを高めるための不可欠な施策です。
本記事のまとめポイント:
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BIAとは:業務中断による影響を多角的に評価する分析手法
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BCP/DRの起点として復旧優先順位やRTOを定義
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ITとの強い関連性があり、システム停止の影響を定量化
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導入には部門横断的な協力が必要
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実践事例からもわかる通り、企業価値を守るための必須プロセス
企業経営におけるリスク管理と継続性戦略の根幹を担うBIAを、ぜひ自社の体制に取り入れてみてください。