ネイティブVLAN(native VLAN)は、企業ネットワークやデータセンターのVLAN設計において、非常に重要な要素です。
特にIEEE 802.1Qプロトコルを利用したトランクリンクにおける通信で、タグを付けずに送受信される唯一のVLANとして動作する点が大きな特徴です。
本記事では、ネイティブVLANの仕組み、利点、設定上の注意点、そして現場での具体的な利用例までを、ITエンジニア向けに詳しく解説します。
ネイティブVLANとは何か?
IEEE 802.1QとVLANタグの基本
イーサネットネットワークにおいて、VLAN(仮想LAN)はネットワークセグメントを論理的に分離する技術です。IEEE 802.1Qは、そのVLANを実現するための標準プロトコルであり、各フレームに「VLANタグ」と呼ばれる32ビットの追加データを付加します。
このVLANタグにより、スイッチは各フレームがどのVLANに属しているか(VLAN ID)を判断し、適切に転送します。
ネイティブVLANの役割
ネイティブVLANとは、IEEE 802.1Qのタグなしフレームを受け入れるために指定された特別なVLANです。
通常、VLAN ID「1」がネイティブVLANとして設定されていますが、ネットワークの設計によっては他のIDに変更することも可能です。
特徴:
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トランクリンク上で唯一タグを持たないフレームが属するVLAN
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タグが付いていないフレームを自動的にこのVLANにマッピング
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タグ付きVLANとの互換性を維持しつつ、非対応機器との通信を実現
ネイティブVLANの使用用途とメリット
VLAN非対応機器との接続
ネットワーク内には、VLANタグを解釈できない機器(例:旧型プリンタ、センサー、IOTデバイスなど)も存在します。
ネイティブVLANを使えば、これらの機器も問題なく通信が可能になります。
VLANを理解しない中継機器の経由
ルーターや古いハブなど、VLANをサポートしていない中継機器がネットワーク経路上に存在する場合、タグなしフレームとして転送することで、通信断を防止する役割を果たします。
管理用ネットワークとしての活用
多くのネットワーク構成では、ネイティブVLANを管理用トラフィック(例:スイッチ間のSTP、CDP、LLDPなどのプロトコル通信)に使用しています。
これにより、VLANタグなしでも確実に制御フレームが伝達されます。
ネイティブVLAN設定時の注意点
セキュリティリスクの理解
ネイティブVLANはタグなしトラフィックを受け入れる仕様であるため、意図しないフレームが通過してしまうことがあります。
この特性を悪用した「VLANホッピング攻撃」のリスクもあるため、以下の対策が重要です。
推奨設定:
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不要なポートにネイティブVLANを割り当てない
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トランクポートではネイティブVLAN IDを変更する
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すべてのフレームにタグを付ける設定(Tagged-only)を利用する
ベンダーによる動作差異
CiscoやJuniperなどのネットワーク機器ベンダーごとに、ネイティブVLANの扱いが異なる場合があります。
導入機器の仕様やマニュアルをよく確認し、相互運用性を保つ設定が求められます。
実際の設定例(Cisco機器の場合)
この例では、インターフェースGigabitEthernet0/1において、ネイティブVLANを「99」に設定しています。
これにより、タグの付いていないフレームはVLAN 99に割り当てられます。
まとめ
ネイティブVLANは、タグなしフレームを処理するためのVLANとして、VLAN設計における重要な役割を担っています。
IEEE 802.1Qトランクリンクの仕様上、ネイティブVLANの正確な理解と適切な設定が、ネットワークの安定性・セキュリティを大きく左右します。
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タグなしのフレームがどのVLANに属するかを決定
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VLAN非対応デバイスや中継機器との互換性を確保
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管理用通信や制御プロトコルの伝送に活用
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セキュリティ対策とベンダー仕様の確認が不可欠
VLAN構成をより堅牢かつ安全にするためにも、ネイティブVLANの活用とリスク管理は欠かせません。