ハンドオーバー(hand-over)は、移動中のスマートフォンやモバイル端末で通信を継続するために不可欠な技術です。
特に基地局の切り替えにより、通話やデータ通信を途切れさせないようにする役割を担っています。
本記事では、ハンドオーバーの基本原理、仕組み、種類(ハード/ソフト)についてIT技術の観点からわかりやすく解説し、モバイルネットワークの理解を深めます。
ハンドオーバーとは何か?
基本的な定義と役割
ハンドオーバーとは、携帯電話などのモバイル端末が移動中に現在接続している基地局から別の基地局へ通信を切り替える処理のことです。
ユーザーが気づかない間に自動的に行われ、これにより通話やストリーミング、インターネット通信が途切れずに維持されます。
例:
電車で移動中に動画を再生していても途切れないのは、ハンドオーバーが正常に機能しているためです。
なぜハンドオーバーが必要なのか?
セル構造と電波範囲の限界
モバイル通信網は、セル(cell)と呼ばれる小さな通信エリアが多数集まって構成されています。
各セルは、基地局が提供する電波の有効範囲で、数百メートルから数キロメートル程度しかありません。
端末がセルの外縁に近づくと電波が弱くなり、通信品質が低下します。
このままでは通話が切断されるため、隣接するセルの基地局へ自動的に接続先を切り替える必要があります。
それがハンドオーバーです。
ハンドオーバーの種類と技術
ハードハンドオーバー(Hard Handover)
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一度現在の接続を完全に切断し、次の基地局と再接続を行う方式。
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通常、CDMA方式の初期世代で使用されていた。
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切り替え時に一瞬の通信断(瞬断)が発生することがある。
デメリット:
リアルタイム通信(音声通話やビデオ会議)においては、遅延や途切れが生じる可能性がある。
ソフトハンドオーバー(Soft Handover)
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複数の基地局と同時に接続しながら、スムーズに切り替える方式。
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主に3G(W-CDMA)以降のモバイル通信で採用。
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通信の瞬断がほぼ発生しないため、安定性が高い。
技術的背景:
「レイク受信(RAKE Receiver)」という技術を利用し、複数の信号を合成して通信を維持します。
ハンドオーバーに影響する要素
電波強度と干渉
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移動速度が速い場合(例:新幹線など)は、セルの切り替え頻度が高まり、ハンドオーバーの精度が求められます。
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都市部では基地局密度が高く、干渉(インターフェア)が発生しやすいため、ハンドオーバー制御がより複雑になります。
通信方式の違い
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LTEや5Gでは、ソフトハンドオーバーは採用されておらず、ハードハンドオーバーを改良した「X2ハンドオーバー(LTE)」「NG-RANハンドオーバー(5G)」が使われています。
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5Gではミリ波通信の特性上、超小型セル(スモールセル)へのハンドオーバーが頻繁に発生します。
ハンドオーバーの応用と今後
自動運転・IoTとの連携
ハンドオーバー技術は、自動運転車両やドローン通信、さらにはスマートファクトリーのセンサーネットワークなど、移動を前提とするIoTシステムにおいても重要な役割を果たします。
5G・Beyond 5Gでの進化
5Gでは「ハンドオーバーフェイルの最小化」と「超低遅延通信の維持」が必須となっており、AIやエッジコンピューティングを活用したインテリジェントハンドオーバー技術の導入が進んでいます。
まとめ
ハンドオーバーは、モバイル通信の連続性を担保する不可欠な無線技術です。
以下のポイントを押さえておきましょう:
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ハンドオーバーは、移動中でも通信が途切れないよう基地局を切り替える処理。
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主な方式は「ハードハンドオーバー」と「ソフトハンドオーバー」。
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3Gではソフト方式、LTEや5Gではハード方式の改良版が用いられる。
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IoT・5G時代ではより高度でリアルタイム性の高い制御技術が求められる。
モバイルネットワークを設計・運用するエンジニアにとって、ハンドオーバーの理解は避けて通れない知識です。安定した通信品質の実現に向け、基礎から応用まで把握しておきましょう。