パイプラインハザードとは?CPU性能を左右する3つの障害を徹底解説

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パイプラインハザード(Pipeline Hazard)は、現代のCPUが高速処理を実現する上で避けて通れない重要な概念です。

プロセッサ内部では複数の命令が同時に処理されますが、その並列処理を阻害する要因がこの「ハザード」です。本記事では、パイプライン処理の概要から、パイプラインハザードの種類、発生原因と対処法まで、エンジニア向けに詳しく解説します。

パイプライン処理の仕組みとハザードの関係

パイプライン処理の基本とは?

パイプライン処理は、1つの命令を複数のステージ(段階)に分割し、各ステージを別々のハードウェアユニットで処理することで、複数命令を並列実行する方式です。

例として、次のようなステージ構成が一般的です:

  • フェッチ(Fetch):命令の読み込み

  • デコード(Decode):命令の解釈

  • エグゼキュート(Execute):命令の実行

  • メモリアクセス(Memory Access):データの読み書き

  • ライトバック(Write Back):結果の保存

この方式により、CPUは同時に数命令を処理することで処理速度の向上を実現します。

しかし、理想通りに動かない現実 ― パイプラインハザードとは?

パイプライン処理には、命令同士の依存関係やリソース競合などが原因で処理が一時停止または巻き戻しされるケースがあります。

これを総称して 「パイプラインハザード」と呼びます。

命令の実行が順調に進まず、パフォーマンスが低下する原因となるため、CPU設計では非常に重要な対処ポイントとなっています。

パイプラインハザードの3つの主な種類と対策

1. データハザード(Data Hazard)

発生原因

データハザードは、ある命令が直前の命令の実行結果を必要とする場合に発生します。

前の命令の実行が完了していない状態で後続の命令が結果を必要とするため、処理が待たされることになります。

具体例

2行目の ADD 命令は、1行目の MOV 命令が終了して初めて正しく処理できるため、パイプラインの進行が一時停止します。

解決策

  • フォワーディング(Forwarding):前の命令の出力を即座に後続命令に渡す技術

  • ステージ挿入(NOP命令など):依存を避けるための時間調整命令を挿入

2. 構造ハザード(Structural Hazard)

発生原因

構造ハザードは、複数の命令が同じハードウェア資源に同時にアクセスしようとする競合状態で発生します。

例えば、同じメモリバスやALU(算術論理演算装置)を同時に使おうとすると処理が詰まります。

例と影響

  • 命令Aと命令Bが同時にメモリを読み込もうとしてメモリバンド幅を奪い合う

  • 実行ステージで2つの命令が同じ演算ユニットにアクセスしようとする

解決策

  • ハードウェア資源の複製:メモリバスやALUを複数搭載する

  • 命令スケジューリング:ソフトウェアまたはハードウェアで命令実行のタイミングを調整

3. 制御ハザード(Control Hazard) / 分岐ハザード(Branch Hazard)

発生原因

制御ハザードは、条件分岐命令(if、switchなど)によって次に実行すべき命令の判断が未確定な状態で、誤った命令を先行してパイプラインに流してしまうことにより発生します。

実例

CPUは CMP 命令の結果を待たずに BEQ の後の命令を先に実行してしまう可能性があり、間違った命令を実行した場合はパイプラインの内容を破棄しなければなりません。

解決策

  • 分岐予測(Branch Prediction):分岐の結果を予測して先に処理する技術

  • 投機実行(Speculative Execution):予測に基づいた命令実行を一時的に行う

  • ループアンローリング:分岐命令を減らすための最適化技法

パイプラインハザードが与える影響と設計の工夫

ハザードによるCPU性能への影響

  • パイプラインが停止または巻き戻しされることで、命令あたりの実行時間が増加

  • 特に分岐ミスの頻度が高いと、全体の処理速度に深刻な影響

現代CPUの対応技術

  • アウト・オブ・オーダー実行(Out-of-Order Execution)

  • 同時マルチスレッディング(SMT)

  • 高精度な分岐予測エンジン

まとめ

パイプラインハザードは、CPU内部の並列処理を阻害し、性能低下を引き起こす重要な要素です。

本記事では、以下のポイントを解説しました。

  • データハザード:命令間の依存関係による処理待ち

  • 構造ハザード:ハードウェア資源の競合による処理遅延

  • 制御ハザード:分岐命令による実行の不確定性

各ハザードに対する解決策として、フォワーディング、命令スケジューリング、分岐予測などの技術が活用されています。

CPUアーキテクチャの理解を深める上で、パイプラインハザードの仕組みを正しく把握することは不可欠です。

今後のシステム設計や性能最適化においても、これらの概念を応用できる知識としてぜひ活かしてください。

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