パブリシティ権(right of publicity)は、芸能人やスポーツ選手などの氏名や肖像が持つ経済的価値を保護するための権利です。
広告や商品プロモーションなどにおいて、有名人のイメージは非常に強力な訴求力を持つため、企業活動における活用機会が多い一方、無断利用による法的リスクも急増しています。
この記事では、パブリシティ権の定義・肖像権との違い・判例の紹介・ITやデジタルメディアとの関係性について詳しく解説します。
パブリシティ権とは何か?
パブリシティ権の定義と起源
パブリシティ権とは、有名人の氏名・肖像・芸名などが持つ商業的価値を保護し、それを本人が専有できる権利です。
具体的には、以下のような情報が対象となります:
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氏名(本名・芸名・ペンネームなど)
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肖像(写真・イラスト・アバター)
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声・サイン・仕草・セリフ(主張による)
この権利の起源はアメリカで、1920年代のハリウッド映画業界におけるスターの商業価値保護から発展しました。現在では、多くの国で明文化されるか、または判例による法的認定を通じて確立されています。
肖像権との違いとは?
肖像権=人格権、パブリシティ権=財産権
肖像権とパブリシティ権は混同されがちですが、その本質は異なります。
両方が侵害されるケース
例えば、有名人の写真を無断で用いたネット広告は、肖像権とパブリシティ権の両方を侵害する可能性があります。
日本におけるパブリシティ権の法的位置付け
明文化されていないが、判例で保護される
日本では、パブリシティ権に関する明確な法律は存在しません。
しかし、判例を通じて以下のように一定の権利として認められています。
主な判例
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ピンク・レディー事件(東京地裁 1984年)
→ 芸名と肖像を無断使用した広告に対して、経済的損失が認められた。 -
プロ野球選手カード事件(最高裁 2011年)
→ 球団が選手の肖像を無断で商品化した件で、選手側のパブリシティ権が尊重された。
これらの判例は、パブリシティ権が財産的利益として認定されうることを示す重要な基準となっています。
IT・デジタル時代におけるパブリシティ権の課題
SNS・AI・広告自動生成との関係性
現代のIT環境では、肖像や氏名の使用が誰でも簡単に行える時代です。
特に次のような場面でパブリシティ権の侵害が発生するリスクがあります。
事例1:SNSでの有名人画像の商用投稿
インフルエンサーや企業アカウントが、芸能人の画像を商品と一緒に投稿した場合、パブリシティ権の侵害になる可能性があります。
事例2:AI画像生成・ディープフェイク
AIによって生成された画像が実在の著名人に類似している場合でも、特定できるレベルであれば違法性を問われるケースがあります。
事例3:サジェスチョン広告の顔写真利用
Google広告などで、本人の同意なく顔写真がバナーに表示される設定をした場合も問題となり得ます。
パブリシティ権の適切な活用と企業の対応策
使用時の注意点とライセンス契約
有名人の肖像や名前を利用する際には、以下のような手続きを行う必要があります:
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明確な契約書による利用許諾
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使用期間・使用範囲の明示
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肖像が含まれる二次創作物(アバター、AI生成画像等)にも留意
企業が取るべきコンプライアンス対応
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広告・プロモーションでの事前許諾の取得
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社内ガイドラインの策定(SNS運用者含む)
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万が一のトラブルに備えた法務部門との連携
まとめ
パブリシティ権(right of publicity)は、著名人の氏名や肖像が持つ商業的価値を保護するための重要な権利です。日本では法律で明文化されていないものの、判例によって一定の保護が認められており、企業活動やIT分野における注意が必要です。
本記事の要点:
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パブリシティ権は財産権としての肖像・氏名利用の独占権
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肖像権とは法的性質が異なる(人格権 vs 財産権)
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SNS・AI・広告技術によって侵害リスクが拡大中
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使用には明確な許諾とライセンス契約が必須
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企業はコンプライアンス対策の徹底が求められる
デジタル社会においてブランドや影響力の保護が重要視される今、パブリシティ権の正しい理解と対応がビジネスの信頼構築に直結します。