かつてのパソコンにおける周辺機器接続といえば、パラレルポート(parallel port)が標準でした。
プリンタやスキャナなどとの通信に使われ、高速なデータ伝送が可能なこのインターフェースは、1990年代を中心に広く普及していました。
本記事では、パラレルポートの仕組みや歴史的背景、技術的特徴とともに、現代における立ち位置をITの専門的観点からわかりやすく解説します。
パラレルポートの基本構造と仕組み
パラレル方式とは何か?
パラレル通信とは、複数のビットを同時に送受信する伝送方式のことで、各ビットごとに独立した信号線を用います。
これにより、一度に複数ビット(通常8ビットや16ビット)を同時転送できるため、高速なデータ転送が実現されます。
パラレルポートの構成
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データライン(8本またはそれ以上)
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ステータスライン(応答信号)
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制御ライン(転送開始/終了など)
パラレルポートは、これらの信号線を組み合わせて動作します。
代表的な仕様として、セントロニクス方式とその後継であるIEEE 1284があります。
主な仕様:セントロニクスとIEEE 1284
セントロニクス仕様
1970年代に登場したセントロニクス方式は、プリンタとの接続に特化して設計されたパラレル通信規格で、8ビット同時転送に対応していました。
高速かつシンプルな構成で、プリンタ接続のデファクトスタンダードとなっていました。
IEEE 1284
セントロニクスの後継として策定されたIEEE 1284では、双方向通信(双方向パラレル通信)が可能になり、より汎用的な周辺機器接続が実現されました。
モードには以下のような種類があります:
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Compatibility Mode(旧セントロニクス互換)
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Nibble Mode
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Byte Mode
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ECP(Extended Capabilities Port)
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EPP(Enhanced Parallel Port)
これにより、従来の一方向通信に加え、双方向通信やDMA転送といった高機能化が進みました。
パラレルポートの利点と制限
メリット
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高速転送:最大2Mbps程度の速度でのデータ転送が可能。
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単純なプロトコル:機器の制御が比較的容易。
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CPU負荷が少ない:特にECPやEPPではDMA利用によりオフロードが可能。
デメリット
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ケーブルが太く長距離には不向き:複数の信号線による電磁干渉(クロストーク)が発生しやすい。
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同期タイミングの問題:ビット間のずれが発生しやすく、高速化に限界がある。
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物理的サイズの大きさ:デスクトップPC向けの設計で、モバイル端末には不向き。
パラレルポートの活用例と歴史的背景
プリンタ接続の代表的手段として
1990年代のWindowsパソコンでは、「LPT1」ポートとして認識され、多くのドットインパクトプリンタやレーザープリンタに使用されていました。
その他の応用分野
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外部ストレージ(Zipドライブ、外付けHDD)
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ドングル(ソフトウェアプロテクト用)
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一部の産業機器や計測装置(現在でも利用されることあり)
パラレルポートの衰退と現在
USBへの置き換え
2000年代以降、USB(Universal Serial Bus)の普及により、パラレルポートは急速に姿を消しました。
USBは以下の点で優れていました:
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ケーブルが細く、接続が簡単
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プラグアンドプレイ対応
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転送速度の飛躍的向上(USB 2.0で最大480Mbps)
現在の利用状況
現在でも一部の産業機器や制御システムでは、パラレルポートが必要とされるケースがあります。
そのため、USB-パラレル変換ケーブルなどが市販されており、レガシーデバイスの延命に利用されています。
まとめ
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パラレルポートは、かつてPCとプリンタを接続する標準的なインターフェースとして広く普及していました。
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セントロニクスやIEEE 1284などの仕様により、高速かつ安定した通信を可能にしていました。
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しかし、電磁干渉やケーブルの取り回しの問題から、2000年代以降はUSBに置き換えられていきました。
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現在では一部のニッチ分野を除き、新規機器ではほぼ使用されていませんが、レガシーサポートとして一定の需要が残っています。