膨大な販売データの中から「お客様が何を一緒に購入しているか」を読み解く手法、バスケット分析(Market Basket Analysis)。
ECサイトやスーパーマーケットをはじめ、さまざまな業界で活用されているこの手法は、データドリブンな販促施策を打ち出すうえで極めて重要です。
本記事では、バスケット分析の基礎から活用事例、ITにおける技術的アプローチまでを解説し、なぜ今この分析手法が必要とされているのかを明らかにします。
バスケット分析とは?
定義と目的
バスケット分析とは、POSシステムなどで取得された購買履歴データをもとに、「どの商品とどの商品が同時に購入されることが多いか」を解析するデータマイニング手法の一つです。
名前の由来は「同じ買い物カゴ(バスケット)に入っている商品」に着目することから。
この分析を行うことで、以下のような目的を達成できます:
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クロスセルやアップセルの可能性を把握
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陳列戦略や販促キャンペーンの最適化
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消費者行動の理解
例:おむつとビールの伝説的事例
1990年代、米国NCR社が小売チェーンの100万件以上の購買データを分析したところ、「17時~19時におむつとビールを一緒に買う客が多い」という、意外な組み合わせが発見されました。
この結果は、仕事帰りの父親が子供のためにおむつを、ついでに自分用のビールも購入するという購買行動に由来するもので、データに基づいた仮説形成の重要性を証明する代表例となっています。
IT視点で見るバスケット分析の手法と実装
基本的な分析技術:アソシエーションルール
バスケット分析で最もよく使用されるのが、アソシエーションルール(Association Rules)というアルゴリズムです。
主な指標:
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Support(支持度):全取引の中で特定の商品の組み合わせが出現する割合
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Confidence(信頼度):Aを買った人がBも買う確率
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Lift(リフト値):AとBの同時購入が偶然以上かを評価
Lift値が1を超えていれば、AとBは独立ではなく関連性があると判断できます。
実装技術とツール
バスケット分析を実装するためには、以下の技術やツールがよく用いられます:
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Python:
mlxtend
やpandas
を使ったアソシエーション分析 -
R言語:
arules
パッケージ -
SQL:簡易的な共起分析に
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BIツール(Tableau / Power BI):視覚的なインサイト提供
✅ Pythonを用いた実装では、Aprioriアルゴリズムでルール抽出を行い、マトリクス状に商品関係を可視化できます。
バスケット分析の活用シーン
小売業界
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商品陳列:関連商品の近接配置(例:パンとジャム)
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レコメンドエンジン:ECサイトの「この商品を買った人はこんな商品も購入」
飲食・コンビニ
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セット販売:コーヒーとドーナツなど、自然な組み合わせを発見しセット化
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時間帯別戦略:時間により変化する購買傾向の把握(例:朝はおにぎり、夜はビール)
金融・保険
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商品設計:複数契約の傾向から新商品を構築
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ターゲティング広告:行動パターンに応じた広告配信
成功させるためのポイントと注意点
精度を高めるコツ
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商品分類の正確性:同一カテゴリーでも意味の異なる商品を分けて扱う
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時間・曜日などの変数の活用:ユーザー行動には時間軸の影響が大きい
陥りがちなミス
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単なる出現頻度の高さを関連性と誤認する
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母数が少ないデータに依存しすぎて誤った結論を導く
まとめ
バスケット分析(Market Basket Analysis)は、販売データから消費者の購買傾向を読み解く強力な手法です。
単なるデータの可視化にとどまらず、ビジネスの意思決定やマーケティング施策に直結する情報を提供してくれます。
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Support、Confidence、Liftの指標で精度の高い分析が可能
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小売、EC、金融などあらゆる業界に応用
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ITスキルとの組み合わせで、戦略的な価値を生み出すツールになる
データ活用が当たり前の時代において、バスケット分析は競争力を高めるカギとなるでしょう。