**2フェーズコミット(2相コミット)**は、分散システムにおけるトランザクションの整合性を保つために不可欠なプロトコルです。
複数のシステムが関わる処理を「すべて成功」または「すべて失敗」として一貫性を確保するこの仕組みは、金融システムやクラウドサービスなど、信頼性が求められる領域で広く利用されています。
この記事では、2フェーズコミットの基本から仕組み、実装上の注意点までを丁寧に解説します。
2フェーズコミットとは?
トランザクション制御の基礎
トランザクションとは、一連の処理を1つのまとまりとして扱い、「すべて成功」または「すべて失敗」のどちらかで完結させる操作の単位です。
たとえば銀行振込では、「出金」と「入金」のどちらか一方だけが成功してしまうと不整合が発生します。
このような一体不可分の処理を**原子性(Atomicity)**の観点から制御することが重要です。
分散トランザクションの課題
1台のデータベースでのトランザクション制御は比較的単純ですが、**複数のシステム間(分散環境)**で処理が分担される場合、整合性の確保は極めて難しくなります。
各システムが独立しており、障害や通信断も想定されるため、通常のコミット操作では不十分です。
2フェーズコミットの仕組み
2フェーズコミット(2PC: Two-Phase Commit)は、上記の課題を解決するために開発された分散トランザクション制御プロトコルです。
プロセスは以下の2段階に分かれます。
フェーズ1 – 準備(Prepare)
-
中央のコーディネータ(Transaction Manager)が、各**参加者(Participant)**に「コミット可能かどうか」を問い合わせる。
-
参加者は処理を実行し、成功すれば「Yes(コミット可能)」と応答、失敗すれば「No」を返す。
-
この段階では、まだ実際のコミットは実行されません。
フェーズ2 – コミットまたはロールバック
-
全参加者が「Yes」の応答を返した場合、コーディネータはコミット命令を出す。
-
1人でも「No」または応答がない場合、コーディネータはロールバック命令を出し、処理を元に戻す。
2フェーズコミットの応用例と実装
実際の適用例
-
金融取引システム:送金元と送金先が別システムでも整合性が必要。
-
クラウド分散データベース(例:Amazon Aurora、Google Cloud Spanner)
-
マイクロサービスアーキテクチャ:各サービスが独立して動作する場合にトランザクションを跨いだ整合性を担保。
技術スタックにおける活用
-
Java:
javax.transaction
やJTA (Java Transaction API)
で2PC対応が可能。 -
Spring Framework:
@Transactional
アノテーションを使った分散トランザクション制御。 -
XAトランザクション:異なるDB製品間で2フェーズコミットを可能にする標準プロトコル。
2フェーズコミットの課題と限界
コーディネータの単一障害点(SPOF)
コーディネータがフェーズ1後に障害で停止した場合、参加者はコミットしてよいか分からなくなり、不整合状態でブロックされることがあります。
待機リソースの増加
すべての参加者がコミット待ちとなるため、リソースが長時間ロックされるリスクがあり、システムのスループットに影響を与えます。
回避策と代替技術
-
3フェーズコミット(3PC):2PCの欠点を補完するが、複雑で実用性は限定的。
-
SAGAパターン:マイクロサービス間のトランザクションで広く使われる代替手法(補償処理による整合性維持)。
まとめ
**2フェーズコミット(2PC)**は、分散トランザクションの整合性を確保するための重要な仕組みです。
-
2段階で「準備」と「確定」を行うことで、全参加者の状態を揃える。
-
コーディネータと参加者間の信頼性ある通信が成功の鍵。
-
単一障害点やリソース待機の問題があるが、クラウドやマイクロサービスの普及と共にますます重要視されている。
これを理解することで、システム設計やトラブルシューティングの際に大きなアドバンテージとなります。