悲観ロック(pessimistic locking)は、データベースやマルチスレッドプログラミングにおいて、排他制御を実現するための重要な手法の一つです。
データ競合が起こることを前提とし、アクセス前にロックを取得して処理の一貫性を保証する方式です。
本記事では、悲観ロックの仕組み・用途・メリットとデメリット・他方式(楽観ロック)との違いまでを、IT技術者視点で詳しく解説します。
悲観ロックの基本とは?
ロック機構の役割
ITシステムでは、複数の処理(スレッドやトランザクション)が同時に共有リソース(例:データベースのレコード、共有メモリ)にアクセスすることがあります。
このとき、処理の整合性を保つために必要なのが「ロック」です。
悲観ロックの仕組み
悲観ロックは、ある主体(プロセス、スレッド、トランザクションなど)がリソースへの処理を始める前に、他の主体のアクセスをブロック(ロック)する方式です。
処理中に他の処理がデータを書き換えてしまうリスクがあると「悲観的」に考えるため、悲観ロックと呼ばれます。
ロックの流れ(例:データベース)
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トランザクション開始
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対象データに対してロックを取得
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データの読み取り・更新処理を実行
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コミットと同時にロック解除
実装例:RDBMS(リレーショナルデータベース)
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SQL Server, Oracle, MySQL InnoDBなどは、標準で悲観ロック機能(排他ロック)を提供しています。
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例:
SELECT ... FOR UPDATE
文は、読み取ったデータに書き込み専用のロックをかける典型的な操作です。
悲観ロックのメリットとデメリット
メリット
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データの整合性を強固に保証
更新処理中に他の主体による変更をブロックするため、競合による不整合を確実に防止できます。 -
処理の再試行が不要
処理開始前に排他制御がされるため、後から処理をやり直す必要が基本的にありません。
デメリット
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他のプロセスを待たせることによる性能低下
ロック取得中は他の処理が待機状態となるため、高スループットが求められる環境ではボトルネックになりやすい。 -
デッドロックのリスク
複数のプロセスが互いのロックを待って永久に進まない状態、いわゆる「デッドロック」が発生する危険性があります。 -
実装・管理が複雑
ロック状態の監視やタイムアウト設定が必要であり、開発者や管理者の負担が大きくなります。
楽観ロックとの比較
楽観ロックとは?
楽観ロック(optimistic locking)は、悲観ロックとは逆に、処理開始時にロックを取得せず、処理後に変更がなかったか確認する方式です。
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データの更新前に、バージョン番号やタイムスタンプを比較して競合を検出します。
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処理のやり直しが発生する前提ですが、競合が稀な環境では高効率を発揮します
選択の目安
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悲観ロック:銀行システム、在庫管理など、データ整合性が最優先の処理
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楽観ロック:SNSの投稿、記事の閲覧履歴など、更新競合がほぼない処理
IT現場での活用例
エンタープライズDBでの利用
企業の基幹業務システム(ERPやCRM)では、悲観ロックがデフォルト設定されていることが多いです。
顧客データや会計処理など、一貫性が最も重視される分野での信頼性確保に有効です。
Web APIとの連携時
RESTful APIでデータベースと連携するWebアプリケーションでは、更新操作に悲観ロックを組み合わせることで、競合エラーを防止できます。
例:商品在庫を更新するECサイトで、同時に複数ユーザーが購入処理を行った場合。
まとめ
✅ 本記事のポイント
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悲観ロック(pessimistic locking)は、リソースの競合が多発する前提で設計された堅牢な排他制御手法。
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他の処理をブロックすることで、データの整合性と一貫性を確実に保証。
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デメリットとして処理待機やデッドロックのリスクがあるため、利用ケースを正確に判断することが重要。
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楽観ロックとの比較を通じて、システム要件に最適な制御方式を選択することが求められる。
悲観ロックは、安全性を優先した設計を行うITシステムにおいて不可欠な要素であり、パフォーマンスとのバランスを見極めた適切な活用が求められます。