WDM(Wavelength Division Multiplexing)は、光ファイバー通信の帯域を飛躍的に拡大するための多重化技術として、現代のITインフラに不可欠な存在です。
1本の光ファイバーに複数の波長の光信号を同時に送信することで、回線の容量を何倍にも増やすことができます。
本記事では、WDMの基本原理からCWDMとDWDMの違い、活用事例、技術的な課題と展望まで、ITエンジニアやネットワーク管理者にとって知っておくべき内容を網羅的に解説します。
WDMの仕組みと原理
光通信における多重化とは
多重化とは、1つの物理回線に複数の信号を同時に送る技術のことです。
電気信号では時間分割(TDM)や周波数分割(FDM)などが用いられますが、光通信では波長分割(WDM)が主流です。
WDMの基本概念
WDM(波長分割多重)は、1本の光ファイバーに異なる波長(≒色)の光信号を重ねて送信することで、複数の論理回線を同時に運用できる技術です。
光は波長が異なればほとんど干渉しないため、物理的に同じファイバー上に複数のデータストリームを並列で流すことが可能となります。
CWDMとDWDMの違いと特徴
CWDM(Coarse WDM)
CWDMは「疎密な波長間隔」で設計されたWDM方式で、主に次のような特徴があります:
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波長間隔:約20nm程度
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波長範囲:1260nm〜1620nm(最大16〜18波長)
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実用波長数:一般的には4波長または8波長
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通信距離:数km〜約80km
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用途例:拠点間接続、地域ネットワーク、低コストでの導入に適す
例:地方のデータセンター間をCWDMで接続し、コストを抑えて回線を束ねる
DWDM(Dense WDM)
DWDMは「密に配置された波長」で高密度に光信号を多重化する方式で、以下のような特徴を持ちます:
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波長間隔:0.8nm〜1.6nm程度
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使用波長数:100〜1000以上も可能
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通信距離:100km〜数千km(EDFAなどの増幅器を併用)
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用途例:都市間通信、海底ケーブル、バックボーンネットワーク
例:東京〜大阪〜福岡を結ぶ光ファイバー幹線でDWDMを使い、大容量のトラフィックを効率的に処理
技術的背景と構成要素
WDMシステムの構成
WDMシステムは、以下のようなコンポーネントから構成されます:
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MUX(Multiplexer):複数の波長信号を1つに合成
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DEMUX(Demultiplexer):合成された波長信号を分離
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トランシーバ(Transceiver):特定波長の送受信を行う
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EDFA(Erbium-Doped Fiber Amplifier):光信号の減衰を補うための光増幅器(主にDWDMで使用)
波長管理の難しさ
特にDWDMでは、波長の間隔が狭いため、高精度なレーザー制御と温度安定化機構が必要です。
また、装置の校正や波長スキューの管理など、運用上の知識も高度になります。
WDM技術の活用事例
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クラウドデータセンター間の大容量通信
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ISP(インターネットサービスプロバイダ)の幹線回線
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企業のBCP対策としての遠隔拠点間冗長化
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5G・IoT時代におけるバックホールの強化
今後の展望と進化
SDM(空間分割多重)との連携
次世代のWDMでは、空間分割多重(SDM)と組み合わせることで、光ファイバーの容量をさらに飛躍的に向上させる研究も進んでいます。
WDM over Passive Optical Network(WDM-PON)
FTTHやアクセス網向けに、WDMをPON構成に応用する技術(WDM-PON)も注目されています。
これにより、家庭ごとに専用の波長を割り当てるような、高品質な通信インフラが実現可能です。
まとめ
WDM(波長分割多重)は、光ファイバー1本で複数の回線を同時伝送できる革新的な技術であり、現代の大容量通信を支える中核的存在です。
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CWDMは短〜中距離向けの低コスト構成
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DWDMは長距離・高密度向けのハイエンド構成
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構成要素にはMUX/DEMUX、EDFA、トランシーバなどが必要
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インフラ・クラウド・5Gなど幅広い分野で活用
今後もWDMは、新たな波長帯・多重技術と融合しながら、世界中の通信網の進化を支える重要技術であり続けるでしょう。