非可逆圧縮(lossy compression)とは、画像・音声・動画データなどを人間の知覚に影響が少ない範囲で一部の情報を削減し、効率よく容量を小さくするデータ圧縮手法です。
JPEGやMP3など、日常的に利用されている多くのファイル形式で使われており、現代のインターネット・マルチメディア技術の根幹を支えています。
本記事では、非可逆圧縮の基本概念、仕組み、代表的な形式、可逆圧縮との違い、IT分野における応用例などを詳しく解説し、初学者にも専門家にも役立つ内容をお届けします。
非可逆圧縮の概要と仕組み
非可逆圧縮とは?
非可逆圧縮は、データの一部を意図的に削除または簡略化することで、元に戻せない形で圧縮する方式です。
圧縮後に元のデータを完全には復元できない点が最大の特徴です。
なぜ一部を削除しても問題ないのか?
画像や音声、動画などのメディアデータは、人間の視覚・聴覚の認知限界を利用し、「気づかれにくい情報」を削減することで容量を小さくします。
これにより、見た目・聴こえにほとんど影響を与えずにデータサイズを大幅に削減できます。
可逆圧縮との違い

可逆圧縮はデータの完全性が重要な場面で使われ、非可逆圧縮は容量削減が優先されるマルチメディアに最適です。
非可逆圧縮が使われる代表的な形式
画像形式
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JPEG(Joint Photographic Experts Group)
静止画における代表的な非可逆圧縮形式。高圧縮時でもある程度の画質を維持。 -
WebP
Googleが開発した次世代画像形式。JPEGより高圧縮かつ軽量。
音声形式
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MP3(MPEG Audio Layer III)
長年スタンダードとして使われてきた音声圧縮形式。 -
AAC(Advanced Audio Coding)
MP3の後継として登場。Apple製品での標準形式。 -
WMA(Windows Media Audio)
Microsoftが開発した形式で、非可逆・可逆両方に対応するバージョンあり。
動画形式
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MPEG-1, MPEG-2, MPEG-4
テレビ・DVD・インターネット動画などで広く使用される。 -
H.264 / H.265(HEVC)
ストリーミングサービスや4K動画配信で主流の動画圧縮規格。
非可逆圧縮の技術的ポイント
どのように情報を削減するのか?
非可逆圧縮では、以下のような方法でデータの情報量を減らします。
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量子化(Quantization):連続値を離散化して細部を省略
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変換圧縮(Transform coding):離散コサイン変換(DCT)などを用いて周波数成分に変換
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心理物理モデル:人間の感覚では知覚しにくい部分を優先的に削除
圧縮率と品質のトレードオフ
多くの非可逆圧縮形式では、圧縮品質を設定できるようになっており、「画質(音質)優先」か「容量優先」かを選択可能です。
例:
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JPEG圧縮率80% → 高画質、ファイルはやや大きめ
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JPEG圧縮率20% → 低画質、ファイルは非常に小さい
IT分野における応用例
ストレージ最適化
クラウドストレージやスマートフォンでは、非可逆圧縮により保存容量を大幅に節約可能。
特に大量の画像・音声・動画を扱う環境では不可欠な技術。
通信帯域の効率化
ストリーミングサービス(YouTube, Netflix など)では、非可逆圧縮により高速・高品質な配信が実現。
モバイル通信量削減にも貢献。
ゲーム・AR/VR・AI領域でも活躍
高精細な映像・音声をリアルタイム処理するゲームエンジンやAIモデルの入力データでも、処理負荷軽減のために非可逆圧縮が広く使用されています。
まとめ
非可逆圧縮(lossy compression)は、データの一部を削除することで圧倒的な圧縮率を実現する技術です。
人間の感覚的な限界を巧みに活用し、実用上ほとんど違和感を感じさせないまま、データ容量を劇的に削減することができます。
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JPEG、MP3、H.264など、日常的に使われている多くの形式が非可逆圧縮を採用
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可逆圧縮との違いを理解し、用途に応じた使い分けが重要
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ストレージ最適化、通信の高速化、リアルタイム処理など、IT技術全般に不可欠な存在
今後も映像・音声の高解像度化が進む中で、非可逆圧縮の役割はますます大きくなると考えられます。